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まだまだ続けるよ!学パロ第3弾。
今回はミラ、アルヴィン、ローエンの顔見せ回です。

まずは読まなくても大丈夫な設定を。
ミラ:二十歳だけど諸事情により高3(文系)。ちょっと中二病。進路未定。
アル:ミラのクラスの副担任。中3の数学も受け持っている。実はエレンピオス学院からのスパイ。
ロー:言わずもがな学園長。よく学園の隅っこで花いじりしてる。

アルヴィンの担当教科は数学にしました。
保健室にはプレサさんがいるし(学パロ1参照)、設定資料にあった技術ってどんな教科なのかわからなくて・・・家庭科とは違うよね?



土曜日の昼下がり、面倒な半日授業から開放された生徒たちが思い思いの放課後を過ごす中、高等部校舎内のある一室では一人の教師と生徒が机を挟んで向かい合っていた。
「これは何だ?」
真剣な表情で教師が机をコツコツと指先で叩いた。その爪先には一枚の紙片があった。
「進路調査票だな」
対面に座る生徒が答えた。改造された制服を着崩し、足を組んでパイプ椅子に座る姿はおよそ教師の前でする生徒の態度ではない。しかしながら教師、アルヴィンはそれを一瞥しただけで特に注意することはしなかった。
「そう、進路票だ。昨日提出させて、目を通して、俺はびっくりしたよ…」
眉間を指で押さえて教師は頭を振った。件の紙片の氏名欄には『ミラ・マクスウェル』の文字。彼らがいる場所は進路指導室であり、現在は進路指導の真っ最中である。
「第一志望、おたく何て書いた?」
「精霊の主と書いたな」
表情だけは神妙な生徒、ミラを前にアルヴィンはともすれば吐き出してしまうそうになるため息を飲み込んだ。
「俺にもそう読める。そこで訊きたいんだけど、精霊の主って大学はどこにあんの?」
「大学などの施設ではない。しいていうなら職業が近いな」
「…どんなお仕事なの」
「読んで字の如くだ。すべての精霊を統べ、人と精霊を守」
限界だ。押さえ込んでいた衝動を解放することにしたアルヴィンは、しかし気遣いを忘れず隣室へ響かない程度の音量で叫んだ。
「ねーよ!そんな職業ねーよ!どこの会社の求人だそれ!」
「先月買ったゲームでな、主人公の正体が実は精霊の主という…」
「そういうのが許されるのは中二までだ!おたく高三だろってか二十歳だろ!何だ精霊の主って。せめてラノベ作家とか書いてた方がよっぽど現実的だよ!」
がんと机を拳で叩いた後、脱力して机に突っ伏してしまったアルヴィンは上目でミラの様子を窺った。教師の叱責も何のその、ミラは少女趣味なバスケットを抱えサンドウィッチをぱくついていた。のれんに腕押しで終わるとわかってはいてもアルヴィンは突っ込まずにはいられなかった。
「だいたい何でサンドウィッチもぐもぐしてんだよミラ!」
勢い良く上体を起こしてアルヴィンは声を荒げた。ミラは不思議そうに眉を寄せ首を傾げた。
「む、くれると言ったではないか」
「言ったよ!?確かにあげるとは言ったけど今食っていいとは言ってねーよ!」
ミラが食べているサンドウィッチは指導室へ来る途中で女生徒がアルヴィンに差し入れた物だった。しかし元より食べるつもりのなかったアルヴィンは捨てるよりはと、物欲しそうにしていたミラにやったのだった。まさかそのまま食べだすとは思わなかったが。
「腹が減って仕方がないんだ。面倒な話は食事の後にしてくれないか」
「呼び出されたくせに何でそんな上から目線?!俺一応教師なんだけど」
自分には教師の威厳とやらはないのだろうか、いや気さくを売りにしてはいるけれど。ミラが特殊であることは承知していたが、あまりのマイペースっぷりにアルヴィンの教師としての自信が揺らぎかけた。
ひっそりと肩を落とすアルヴィンとは対照的に、腹が膨れてきたからだろう、ミラは機嫌が良さそうだった。
「だからこうして指導を受けに来ているじゃないか…うむ、このカツサンドは美味いな。購買より衣が薄くて肉がジューシーだ!アルヴィン、できたら次も私にくれ」
空になったバスケットをアルヴィンに返し、ミラは堂々と差し入れ品の横流しを要求した。その爽やかな笑顔には、もう帰っていいかと書かれている。アルヴィンは呆れて突っ込む気力が沸かなかった。きっと今自分の顔にも早く帰りたいと書かれているのだろう。遠くなりそうになる視線の焦点を何とか合わせ、ぽそりと零した。
「…アルヴィン『先生』って言ったら考えてやる」
 
結局アルヴィンにできたことといえば大学名鑑を渡し、月曜までに実在する大学名で進路票を埋めて来るよう指示することだけで、おざなりな進路指導は終わった。
ミラが退室した後、アルヴィンは力を抜いて息を吐いた。体重を掛けられた安物の回転椅子が悲鳴をあげるが、アルヴィンは構わず白衣のズボンのポケットから煙草を取り出した。紫煙をくゆらせ、ミラの進路票をファイルに挟んだ。開けた窓からは運動部の掛け声が遠く響き、ドアからは硬質なノックの音がした。。
 
「学園内は全面禁煙ですよ」
ノックの後、指導室に入ってきたのは学園長のローエンだった。煙草を携帯灰皿に詰め込み、アルヴィンは首だけをローエンの方へ向けた。
「使用中って点灯してたはずですけど」
「ええ、ですがミラさんが出て行くのを見ましたから」
「…そーですか」
肩をすくめ、アルヴィンはゆっくりと窓際へ移動するローエンを目で追った。しゃんと伸びた背筋、身に付けている物はどれも仕立てが良さそうで、それだけ見れば紳士の鑑のような老人だ。しかしながらシャツの袖をまくり、首にはタオルを掛け、何故か片手にだけ軍手をはめている今の姿は学園長というより用務員のようで、実際、気付けばいつもローエンは学園内で雑用仕事をしている。人の良い雇われ学園長というのが、アルヴィンが彼に抱いた第一印象だった。だがアルヴィンには疑問に思っていたことがあった。
「お疲れのようですね」
「そりゃ新任でいきなり高三の副担ですからね、慣れないことだらけで。中三の数学も受け持ってますから大変ですよ」
自らの人事のことが疑問だった。新卒ではなく、他校で何年か教鞭を取っていたとはいえ、赴任したての新参者に大事な受験生の副担任など普通は任せるだろうか。しかも他学年とも掛け持ちなど。それを決定したのはこの学園長だった。
「すみませんね、ちょうど良い人がいなかったものですから」
静かに窓の外を眺める背中からは表情が読み取れない。もう少し探りを入れるべきかとアルヴィンが思案していると、ローエンがこちらを振り向いた。常の好々爺然とした様子はどこへ、底の見えない無表情だった。
「ですが、その方があなたには良かったでしょう?」
一瞬、何を言われているのかわからずアルヴィンは首をかしげた。が次の瞬間、喜ばしくない可能性に気付いて内心で唇を噛んだ。確かにこの人事は自分の『仕事』をこなす上で都合が良かった。観察対象者の二人、ミラ・マクスウェルとジュード・マティス両名と堂々と接することができるのは有り難かった。それが偶然であるならば。
自分の正体が知られているなら、対応を変えなくてはならない。頭をフル回転させ、この場を切り抜ける口上を考えていると、不意にローエンの表情が崩れた。
「怖い顔だ。折角の色男が台無しですよ」
女生徒が悲しみますと、ローエンは頬を緩ませた。
「少し大変なくらいが、かえってやる気が出て、指導に熱が入るものです」
片方だけの軍手を外してポケットに入れ、ぽんとアルヴィンの肩に手が置かれた。野良作業で日焼けしたのだろう、その腕は手首を境に色が異なっていた。
「頑張って下さい、期待していますよ」
そう言い残すと、ローエンは穏やかな足取りで指導室を出て行った。残されたアルヴィンはズボンのポケットに手を入れ、しかし思い直して白衣のポケットからキャンディを取り出し口に放り込んだ。
 
「…喰えねぇジーサン」
気だるげに頭を掻いて、アルヴィンも指導室を後にした。職員室に戻って課題の採点をしなくてはならない。それから委員会用のプリントも作成しなければ。来週は朝の挨拶指導の当番が入っている。仕事は山積みだ。まったく教師というのは忙しい。
「スパイなんてやってる暇あるかねぇ?」
楽しそうに廊下を走る声にくたびれた白衣が煽られる。呟きは、キャンディを噛み砕く音に紛れて消えた。
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